
ソウルの職場近くで、「北韓(北朝鮮)芸術団巡回公演」と記した無料招待券が配られていた。「北の芸術団なら北韓ではなく『朝鮮』と表記するはず」と疑いつつ、興味半分で行ってみた。
観客約300人のほとんどが高齢者。脱北者とおぼしき平壌なまりの女性歌手のあいさつと、北朝鮮の流行歌「パンガプスムニダ(お会いできて光栄です)」で公演は始まった。軽快な曲に観客は手拍子を送り、15分ほどたつと司会者の男性が話し始めた。
「最近は死後の自分のことも、自分でしなければなりません。子供に頼らず準備しましょう」。こう話した司会者は、「今、韓国で葬式を挙げると938万ウォン(約94万円)かかりますが、当社の互助会員になると420万ウォン。本日、会員になれば特別割引で360万ウォンにします」と続けた。公演の正体は怪しげなセールスだった。
「昔は大統領の葬儀にしか使えなかった霊柩(れいきゅう)車に、遺族送迎バスも付けます」「東南アジア豪華客船ツアーもサービス!」。申込書が配られ、周囲の高齢者は続々と記入していた。申込書は回収され、公演は再開した。
伝統的に老人を敬うはずの韓国での出来事だ。北(?)芸術団よりも、巧みなセールス口上が印象に残った。(名村隆寛)