
UBICは、米ナスダック、東証マザーズに上場している、日本で唯一の国際訴訟における独自技術を用いた情報解析事業を行う会社だ。競争法や知的財産関連の国際訴訟で顧客のアジア企業を支援し、創業11年目を迎える。情報解析分野で世界ナンバーワンになることを目指し、目標達成にこだわる組織のマネジメントを行っている。社長は自衛官出身だという守本正宏氏。その経験から生み出される独自の思想を紐解いた。
●日本企業を守りたいという思いから始めた情報解析事業
中土井:創業11年目ということですが、これまでにどのような事業をしてきたのですか。
守本:日本企業をはじめとするアジア企業の国際訴訟支援ビジネスをやってきました。訴訟の現場において、証拠を解析し、法的問題を解決する事業をしています。
パソコンの普及により、訴訟における証拠の多くは電子情報となりました。情報量が多いため、人の手で必要な情報を選別するには膨大な時間がかかってしまいます。そこで、われわれが提供するのが人工知能を用いた情報解析サービスです。この人工知能は、人間の行動を予測する行動情報科学に基づき独自に開発しました。われわれは、アメリカの訴訟社会で唯一、日本の会社として独自技術で情報解析を行っています。訴訟社会といわれるアメリカで戦うため、ナスダックにも上場しました。日本企業のこのサイズでナスダックに上場できたのはわれわれだけだと思います。
中土井:今の事業を始めるまではどのような仕事をしていたのですか。
守本:もともとは自衛官でした。94年に退官し、その後、外資系の半導体メーカーに入社しました。8年間勤めた後、今の会社を起業して現在に至ります。
現在展開しているような情報解析事業の存在を知ったのは会社員のときです。防衛大学時代の先輩で、商社のアメリカ法人社長をしていた人から、訴訟支援事業の話を聞いたのがきっかけでした。事業内容に興味を持ち、いろいろと調べてみると、日本には国際訴訟の支援を情報解析の側面からサポートする会社がないということが分かりました。多くの日本企業がアメリカへ進出しているにも関わらず、日本企業を訴訟の面で支援する日本の企業がなかったのです。
訴訟というと、弁護士を雇って戦うというイメージがあるかもしれませんが、実際には費用の約7割はデータ解析に充てられます。アメリカの会社に解析を依頼することになりますから、会社が持っている非常に重要な情報を海外の会社に引き渡すことになってしまうのです。その現状を変えたい、日本の企業を守りたいという思いで会社を始めました。
起業したいという思いが先にあったわけではなく、この事業をやらなければならないという使命感から、結果的に会社を作るに至りました。前職を退職した頃は、私に社長業ができるとは全く思っていませんでした。
中土井:今の会社の事業と自衛隊時代の経験にはどのようなつながりがあるのですか。
守本:軍隊も情報解析事業もダメージコントロールをするという点では似ています。
大きな会社であれば、訴訟は避けては通れません。特にアメリカでは、よい企業になればなるほど訴訟が発生してしまいます。会社がだめにならない限り、訴訟を避ける方法はありません。訴訟を起こされたとしても、ダメージをいかに小さくするかが重要なのです。
軍隊においても、根底にある考え方はダメージコントロールです。戦争などの非常事態が発生した場合、ダメージを受けたとしても、最低限の戦闘能力を保持しながら生き残ることが国家の存続につながるのです。
●事業をビジネスではなく、問題解決の手段と捉える
中土井:他の企業の追随を許さず、飛躍的な成長を遂げた理由はどこにあると思いますか
守本:ビジネスという意識でいるのではなく、問題解決を優先させてきたからだと思います。正確さ、スピード、低コストを追求した結果、今のやり方にたどり着きました。ビッグデータの捉え方をビジネスとして捉えると、IT技術の延長線上の技術になってしまいます。そうではなく、われわれは人の行動をどう解析しようかというところからスタートしています。独自のアルゴリズムを開発し、人工知能を作り上げたので、他社がまねをすることはできません。
われわれの会社のCTO(最高技術責任者)は哲学、心理学、犯罪学などを研究し、システム構築に関わってきた人物です。他のキーメンバーの中には、スタンフォードで研究をしていた素粒子物理学者や計算言語学博士もいます。ITの延長線上の技術ではなく、人の行動の解析だと捉えているので、このようなメンバーになったのです。
●日本人だからこそ、国際訴訟における情報解析事業で1番になれる
中土井:「戦う」という言葉を使っていますが、守本さんにとって戦いに勝つことはどのような意味を持っているのでしょうか。
守本:われわれが世界で1番になることです。それが社会貢献だと思っています。われわれがこの業界で1番になることで、訴訟社会における常識を変えられるはずです。情報解析事業は、実際に関わってみると、サービス業でありハイテク産業だと分かります。日本人が得意とする分野です。われわれは、訴訟業界のトヨタになりたいんです。日本は自動車業界において、発展途上にありましたが、その日本企業である、トヨタが自動車大国アメリカで、今や世界1になったように、訴訟において遅れをとっている日本から出てきたわれわれが1番になれると思っています。
会社はまだ小さいですが、グローバル企業です。世の中の訴訟における公正、平等を守ることを理念に掲げています。この技術、経験すべてを使って不公平をなくしていくことを目指しています。
中土井:日本に対する誇り、思い入れはどこから生まれているのだと思いますか。
守本:自衛隊時代、前職の外資系半導体メーカー時代を通して、海外に行く機会や外国の人と会う機会が多くありました。海外の文化に触れることで、日本人の誠実で真面目な気質のすばらしさに気付く機会が多かったと思います。技術力も素晴らしく、日本人はとてもクリエイティブで、「日本の誇りを守りたい」という思いはずっと持ち続けています。
仕事で海外の人と接するときも、外国のやり方に合わせるのではなくて、日本人としての考え方で話すようにしてきました。そうすると、ちゃんと理解してくれて、リスペクトしてくれるようになりました。
●会社のミッションが達成されることによって、個人の目標も達成される状態であること
中土井:どのような組織作りを目指していますか。
守本:ミッションを達成するために、効率的に動くことができる組織を目指しています。的確に動けるよう、組織そのものが身体を構成しているようなイメージです。直面している問題によっても、人の配置は柔軟に変わります。このようなマネジメントの考え方は、自衛隊時代の組織論や部隊の編成などが影響しています。
モチベーションの面においては、会社の目的が個人の目的と合致することを重要視しています。継続するために大事なのは、会社のミッションが達成されることによって、個人の目標も達成されることです。
訴訟支援ビジネスは戦場と同じです。戦場は危険で、あらゆる問題が発生する可能性があります。あらゆる問題を解決して、ミッションを達成し、しかも生きて帰ってくる強い人との組織作りが重要です。
●目標を見失うことさえなければ、困難は乗り越えられる
中土井:会社のメンバーは何に引かれて集まったのだと考えていますか。
守本:やはり、高い目標を掲げているところだと思います。やっていることの意味を分かっている人は楽しんでいますし、ついてきてくれています。目標を見失うことさえなければ、どんなに大きな困難があったとしても、取り除くことができます。目標を見失ってしまうと、取り除くべき障害を見極めることさえできなくなってしまいます。
経営者としての責任は、機会を与えることだと考えています。訴訟社会と言われているアメリカで、海外の上場会社などを相手に対等に戦い、勝利を収めるためには、今よりも組織を拡大させる必要があります。社員が頑張った分だけ組織は大きくなるでしょう。目標達成に向けて進み続けるならば、自然と部下も増えていくはずです。会社の中にそれぞれのポジションができて、必要とされる人間になれます。社内で競争するのではなく、外に向かって結果を出してくれと言っています。
目標に向かうといっても、全員が指揮官であるべきだということではありません。全員に強い意志と体力を求めているわけではなく、それぞれの価値観を認めています。多様性がある方がうまくいきます。前線で働く人がいれば、後ろでバックアップする人も必要です。
●最終的に決断を左右するのは人生観
中土井:会社を作ってから現在までで、自身について大きく変わった点はありますか。
守本:自分の考え方や生き方、経験を振り返るようになりました。何か決断をしなければならないとき、その判断には人生観が関係してくると実感しています。このことは自衛官のときから言われてきました。戦場における究極の決断においても、最後には、それまでにどんな生き方をしてきたのかが影響するのだと教えられました。明確な答えがあるのではないので、人生観が決断を左右するのです。今まさに、日々決断を迫られているので、以前よりも自分の人生観を信じるようになりました。
中土井:次の人に会社を譲ってもいいと思うようになるのは、どのような状態になったときだと考えていますか。
守本:まだ考えたことがありません。おそらく、自然に次へ渡せるときが来るのだと思います。経営における私の価値観を若い人へ伝えていこうとはしていますが、意図的に身を引く状況を作ることはしない気がします。
経営は意図的に進むだけではありません。思いがけない偶然によって、素晴らしくうまくいくことがあります。創業してからどんなことをして、今につながっているのかよく聞かれますが、正直、今になって説明したところで、後付けにしかなりません。私なりに考え抜いて今までやってきましたが、最後の1ピースは運が決めるような気がします。
中土井:話を伺っていて、ミッションを達成するための組織という観点で戦いやすい組織作りをしていることは守本さんの自衛官としての経験と深い関わりがあると感じました。日本企業として世界ナンバーワンを目指し、国際訴訟の公平性を守りたいという思いに人々が引き寄せられ、会社が成長してきました。
対談を終えて
「組織」という捉え方が、その経営者の人生観、哲学、人生経験というものによって、大きく異なってくるということを改めて痛感する機会となりました。特に、ビジネスという共通のフィールドであるにも関わらず、どんなメタファーで状況を捉えるかによって、「組織」という存在はこうも違うものなのかと驚きすらも感じます。
組織を進化する生命体としてのメタファーとして捉える人もいれば、人間成長の学校というメタファーとして捉える人もいる。また、自分の組織を自分の作品を描くキャンパスとして捉える人もいます。守本社長は自衛隊という過去の経験から、軍隊というメタファーから組織を捉えているのがひしひしと伝わってきました。
組織観は多様であるにも関わらず、経営理念に拠って立つところから組織を考える点においては、理念経営をしている他の創業社長と一致しているのがとても興味深く思うのとともに、そこに人と組織の本質を感じずにはいられません。
【[聞き手:中土井僚(オーセンティックワークス)、文:牧田真富果】
(ITmedia エグゼクティブ)