
【話の肖像画】東京海洋大客員准教授・さかなクン
〈魚と絵をこよなく愛する青年が「さかなクン」として活動するようになったきっかけは、すし店のバイトだった〉
専門学校を卒業した後、おすし屋さんでバイトを始めましたが、おすしを握るのが苦手だったんです。シャリがぼろぼろになったり、おにぎりのように大きくなりすぎてしまったり。皿洗いや甘エビの殻剥(む)きばかりで「自分はすし職人に向いてないな」と思いました。
けれども大将が「これだけ面白い魚の絵を描くんだから、うちの店の壁いっぱいに絵を描いてくれよ」と言い、画材をそろえてくれました。とてもうれしくて外壁にクロマグロやマンボウ、バショウカジキなどをどんどん描いていくと、車通りの多いところだったのでバスに乗っている人や通りがかりの人からたくさん声をかけてもらいました。それに興味を持ったテレビ番組のディレクターさんがドキュメンタリーにしてくれたところ、今の事務所の方に声をかけてもらったんです。そこから絵を描かせてもらう仕事や、テレビ番組の中でお魚についてリポートする役をさせてもらうようになりました。
〈魚や海に関する豊富な知識、活動が評価され、平成18年に憧れていた東京海洋大の客員准教授に就任した〉
東京海洋大では千葉県館山市に研究室があります。捕ったお魚を計測したり、絵を描いたり。生態や増殖などいろいろな研究をされている先生からも最新のお話を聞かせてもらっています。自分の研究テーマは、幅広くお魚の魅力をお伝えすることです。漁師さんの船に一緒に乗せてもらって漁法がお魚の生態にどのように結びついているのか、季節や海流などの影響でどのようにお魚の取れ方が変わるのかなど、実体験を元に蓄積したデータをまとめています。
〈現在は自宅も館山市にある。仕事で全国を飛び回る日々が続くが、館山で得られるものは多いという〉
館山で暮らし始めて15年くらいですね。タコが好きになった幼少期に親戚のいる白浜によく行っていたこともあり、房総半島が好きだったんですね。いつか住みたいと思っていました。東京の仕事場との関係を考えると、高速バスなどで館山なら通えるなと。海沿いにすごくすてきな場所があり、白浜には祖父母もいたので、家族で館山に移住することに決めました。
館山はやっぱり空気がおいしいですね。夜空も東京では見られない星が見えるし、山と海の近さ、お魚の種類の多さやおいしさ、野菜も果物にも困らないですね。豪快な人が多く人情もすごくある。古き良き日本の味わいがしっかり残っているのがうれしくて、大好きな土地です。日本各地や世界もたくさん回らせてもらいましたが、館山に帰ると心が落ち着きます。自然の魅力がギョ感(五感)でいただける場所なんです。(聞き手 杉侑里香)