「どっちが勝った !? え、見てないのかよ~」
西武の森本が笑いながら大げさに天を仰ぐ。練習中、同じ移籍組の脇谷と短距離ダッシュで競走し、近くにいた球団広報に勝敗を聞いたときの一場面だ。
6月4日に伊原監督が休養(現在は辞任し、球団付アドバイザーに就任)。口やかましい前任者に代わって田辺監督代行が就任して以来、西武の選手に明るい笑顔が戻ってきた。
もっか西武は29勝42敗(4日現在)。借金13で最下位と苦しんでいるものの、田辺監督代行が指揮を執ってからは8勝8敗と勝率5割を維持している。
雰囲気だけでなく、野球も変わった。田辺監督代行は采配について、こう話す。
「まあ、ある程度選手はいるしね。なるべくこっちからは指示を出さないようにしている。選手任せ? というより、選手に考えさせるってこと。例えば、『当然、この場面ではベンチからこういうサインがくるよな』と選手が頭に思い浮かべる。そこでベンチのサインを見て、考えが合っているかどうかを確認するという形。投手とか専門外の分野はどうしているかって? そこは担当コーチがいるから任せている」
伊原監督は極端なケースでは1球ごとにサインを出すこともあった。不調の打者にさえ、「初球、偽装スクイズで走者を送る」というサインを出したこともある。不利なカウントから勝負を余儀なくされ、あえなく凡打ということもあった。打席では常にベンチの顔色をうかがわなければならず、選手間では「やってられない」と諦めにも似た雰囲気が漂っていた。
もっとも、ある他球団スコアラーは「田辺さんは運もいい」とこう言う。
「実戦をほとんどやらないキャンプの影響で、開幕しばらくは打者の調子はどん底だった。伊原監督が休養する直前から、ようやく打線が上向きになってきた。ケガで離脱中の浅村が戻ってきたら、相当厄介な打線になる」
来季は「代行」の2文字が取れるかもしれない。