スポーツ立国の実現を目指して、政府が来春の設置を目指すスポーツ庁創設の動きが停滞している。選手強化や資金の配分を国主導とするプロジェクトチーム(PT)案が先月、スポーツ議員連盟(麻生太郎会長)に差し戻しを食らったからだ。東京五輪まで6年、モタモタしている時間はないのだが…。
■スポーツ庁構想
スポーツ庁設置は、世界に通用するアスリートの養成などを通して世界における日本の存在感を高め、国民に活力を与えるのが狙い。2010年に構想が持ち上がり、昨年10月、東京五輪決定を受けて超党派のスポーツ議連がPTを立ち上げた。
ワールドカップ(W杯)や五輪を見るべくもなく、国際大会で自国の選手、チームが活躍したときにもたらされる高揚感、スポーツを通じて実現される社会の健康などスポーツの重要性に早くから気づいている国はスポーツ庁のような組織をすでに設置している。欧米各国や中国、韓国など十数カ国にあり、日本は遅れている。
さらに日本では、スポーツ・青年局は文科省、障がい者スポーツ政策は厚労省などと複数にまたがっているスポーツ行政が集約され、効率化に期待も持てる。スポーツ庁とダブる各省庁の部局をきちんと整理・廃止していくことが前提だが、悪くない構想といえる。
だが、ここまで順調だった動きにブレーキがかかった。金の問題だ。
■資金配分問題
差し戻しを食らったPT案では、スポーツ庁の下部組織として、国からのスポーツ強化資金を一元的に管理する独立行政法人を設立し、そこから各競技団体に資金を配分するという金の流れを提案している。
これに反発したのがJOC(日本オリンピック委員会)だ。強化費をどこにどれだけ配分するかは競技に精通し、競技団体の事情に詳しいものが行うべき-と、加盟60団体の同意を得て競技団体の会長を務める各議員らに要望書を提出。それが奏功して、PT案の差し戻しに至ったのだ。
差し戻しを決めた際、麻生会長は「JOCの上部団体はスポーツ庁ではなく、IOC(国際オリンピック委員会)だ」と宣った。これはつまり、スポーツ庁から競技団体に強化費が「下りてくる」ことへの、明確な拒否といえる。
自らPTを立ち上げたスポーツ議連の会長に提案を差し戻されたのだから、構成議員もビックリだろう。ただ、彼らにも言い分がある。
100億200億と税金を使うのに、民間団体(JOC)に任せられない。だいたいスポーツ庁構想の発端の一つに、複数の競技団体の不明朗な会計問題があったはずだ、と。おいそれと差し替えられる問題ではなさそうだ。
■金持たぬ組織の悲哀
カネ、カネとうるさい話で恐縮だが、仕方がない面もある。金を握らなければ組織として発言力、指導力を行使できないからだ。
国内最大のプロスポーツ、日本のプロ野球を統括する立場にある日本野球機構(NPB)に極端な例をみる。球界全体で売上高が約1400億円あるといわれる中、予算規模40~50億円で2年前までは決算も赤字。テレビ放映権を各球団に管理されていることが大きく、主な収入は日本シリーズ、オールスターの放映権や入場料、野球日本代表の興行やスポンサー料などに頼っている。
2012年11月、巨人の日本シリーズ優勝祝賀会に出席した当時のコミッショナーが「巨人の4勝0敗で終わったらNPBは赤字になるだろうから、(4勝2敗で)2試合やれば数億円はもうかるだろうとご配慮をいただいたという“説”がないことはない」などと発言して話題になった。統括の最高責任者が一球団の祝賀会に出席してこんなお追従ジョークを発しているぐらいだから権威のなさもわかろうというものだ。
オリックスと近鉄の球団統合に端を発する球界再編騒動(2004年)でも、リーダーシップを発揮することなく、オーナー会議と選手会の間で「ストライキをやめろとか合併をやめろという権限はない」などと収拾能力のなさを露呈。つまるところ、業界内のお金の流れを差配し、球団に対する(一部でも)生殺与奪の権利を掌握しない限り、名ばかりのトップ組織のいうことなど誰も聞かないということだ。
JOCの予算規模は約78億円、スポーツ庁は文科省のスポーツ関連予算から推計して年間約230億円。だが、JOCは今後強化費を年間100億円、「6年間で最大1000億円の確保が必要」などと要望しており、東京五輪をにらんで多額の予算が目の前をちらついている。強化資金の流れをめぐってさらに綱引きが起こりそうなだけに、きちんとしたスポーツ庁設立を望むなら、思い切って東京五輪後した方がいいかもしれない。(市坪和博)