W杯ブラジル大会はベスト4が出そろい、8日(日本時間9日)にブラジル-ドイツ、9日(同10日)にオランダ-アルゼンチンが行われる。いずれも優勝候補に挙げられる強豪国が残った準決勝では、果たしてどんなサッカーが展開されるのか。本紙担当記者と、4大会連続で日本代表に名を連ねたGK川口能活氏(J2岐阜)が行方を占った。
■ブラジル飛車角落ち 雪辱に燃えるドイツ
ファン垂涎(すいぜん)の好カードも水を差された格好だ。ブラジルは準々決勝で負傷したネイマールが離脱し、守備の要で主将のチアゴシウバも累積警告による出場停止。飛車角落ちの戦いを強いられることになった。
ドイツも準々決勝を前に、今大会4ゴールのミュラーら複数の選手がインフルエンザのような症状を訴えた。幸い軽症で済んだようだが、レーウ監督は「気温の変化か、エアコンの問題か…」と原因がはっきりしない事態に頭を抱える。
W杯優勝はブラジルが5度、ドイツが3度。しかし、W杯での直接対決は2002年日韓大会決勝の1度だけ。“世紀の初対決”は2-0でブラジルが制しており、ドイツも雪辱に燃えている。
今大会はともに攻撃的なチームで乗り込んできたが、ブラジルは準々決勝でコロンビアの新星ロドリゲスの存在を消すことを最優先。ドイツも粘り強く守ってフランスを退けており、ともに守備を優先させた現実的な戦いが予想される。
アルゼンチンとオランダも苦戦の末に準決勝へたどり着いた。アルゼンチンはメッシ、オランダもファンペルシーとロッベンという世界的アタッカーを擁するが、いずれも攻撃力を思うように発揮できていない。
アルゼンチンは、サベラ監督が「メッシのような選手がいれば頼るのは当然」と話すように“守備免除”のメッシが次々に好機を演出。しかし、準々決勝のベルギー戦はチームとして1得点にとどまり、試合終了間際は一方的に攻め立てられて冷や汗をかいた。
オランダも準々決勝は格下のコスタリカにPK戦にもちこまれ、ファンペルシーとロッベンは組織的な守備の前に決定的な仕事をさせてもらえなかった。準決勝も双方がキーマンを徹底マークする展開となりそうだ。
W杯でのアルゼンチンとオランダの直接対決はオランダの2勝1敗1分け、直近の06年ドイツ大会は1次リーグで引き分けている。コスタリカ戦後に「私たちが勝利に値した」と胸を張ったファンハール監督だが、じりじりとするような試合になる可能性は高い。(奥山次郎)
■川口能活氏「修羅場くぐったチームが力発揮」
トーナメントで力を発揮する条件は「九死に一生を得る経験をしたか否か」だと考えている。負けを覚悟するような厳しい戦いをモノにすると、チームに「やれるんだ」という自信がよみがえり、追い込まれる展開でも力を出せる。
その観点から予想すると、決勝はブラジル-オランダか。ブラジルは決勝トーナメントでチリ、コロンビアと、互いの戦術を知り尽くす南米のくせ者を連破した。ネイマールを失い、主将のチアゴシウバも出られないが、非常事態は団結するきっかけにもなる。選手は「ネイマールのために」とまとまり、勝負に徹して戦うだろう。
ドイツは最も“無風”で勝ち進んできた印象だ。インフルエンザ感染はあったがGKノイアーの安定したプレーもあり、負けを意識した戦いは皆無ではないか。開催国との準決勝は完全敵地の雰囲気だけに、勝負強さには不安が残る。
オランダは終了間際にGKを交代してPK戦を制した。W杯でPK要員のGKを起用する光景は記憶にない。監督の采配と、紙一重の修羅場を勝ちきったチームの自信は大きい。
アルゼンチンはメッシ頼みから抜け出せない。ディマリアの負傷で重要な前線の人材も失った。ただ準々決勝のベルギー戦では早い時間に先制し、したたかに勝ちきったように試合巧者。オランダ相手に先制すれば決勝も見える。
W杯は技術的に世界最高峰の戦い。最終的に勝負を決めるのは「気持ちの強さ」ではないか。(1998・2002・06・10年W杯日本代表、J2岐阜GK)