178センチ、140キロ。嘉風の小柄な体が躍動した。速攻が持ち味の日馬富士のお株を奪う完勝。初金星を史上最年長の32歳3カ月27日で達成した。機嫌良く引き揚げてきた支度部屋で記録更新を知らされ、「まじっすか。そういう記録はうれしい」とかみ締めるように喜んだ。
当たった直後に左でいなした。休まぬ突き押し。土俵際でこらえた相手と左四つに組みかけたが、「胸が合えば、絶対に勝てない」。左の下手を切りながら土俵を回り込み、すかさず肩すかしで転がした。
取組前は冷静な心で分析し、土俵に上がれば熱い相撲を取る。勝ちっ放しだった3横綱のこれまでの相撲を見て、「今場所は攻め込まれても、落ち着いてさばく印象があった」。だから好機が目の前に来たら「勝負どころを逃さないようにと思っていた」とうなずいた。
日馬富士に対しては、これで4連勝。通算でも5勝2敗と分が良い。なすすべなく敗れた横綱は「とにかく速い。よしっと思った瞬間に動くから。目もついていかない」と、すっかり苦手意識を植え付けられたようだ。
新三役だった先場所は負け越して陥落したベテランだったが、面目躍如。会場を後にする頃には「寝たら忘れます。明日も相撲がありますから」といつもの飄々(ひょうひょう)とした顔に戻っていた。(藤原翔)